ある男
文藝春秋 | 2018/09/28
みんなの感想
平野啓一郎のこの新作は、なかなかに骨のある作品ですね。弁護士の城戸が依頼者の里枝から聞かされる「ある男」の話。夫だと思っていた人が、実は全くの別人だったというんですから、もう驚きですよ。 なんといっても心をつかまれるのは、人間関係の根底にある信頼がいかに脆いものかということ。二度目の結婚で幸せを感じていた矢先の大事件ですから、里枝の衝撃たるや、想像を絶します。著者は巧みに謎を解き明かしていくのですが、単なるミステリではなく、人はなぜ人を愛するのか、という根本的な問いかけになっているところが素晴らしい。 75年も生きていると、人間のいろいろな側面を見てきたつもりですが、この本はそれでも新しい角度からの問いを投げかけてくれます。決して重くなり過ぎず、読み易いのも嬉しいところ。平野啓一郎、やはり只者ではない作家だと改めて思いましたね。
平野啓一郎の「ある男」を読み終わりました。前作「マチネの終わりに」も良かったんですが、これはそれ以上ですね。 夫だと思っていた人が実は別人だったという設定だけで十分なドラマなのに、著者はそこからさらに深く、人間が他者を愛するということの本質に迫っていく。年を取ると、こういう問い掛けには心が揺さぶられます。 弁護士の視点から事件を追いながら、妻・里枝の心情も丁寧に描写されていて、ページをめくる手が止まりませんでした。特に後半、真実が明かされていく部分のサスペンス性と、その背後にある人間ドラマのバランスが見事です。 気軽に読む小説としては少し重めかもしれませんが、読む価値は十分にあります。人生経験を積んだ身としては、この作品が問い掛ける「愛とは何か」という問題が、他人事とは思えずに響いてきました。久しぶりに読後の余韻に浸りたくなる良い一冊でした。