愛蔵版 それいぬ

愛蔵版 それいぬ

嶽本野ばら

出版社:国書刊行会 出版年月日:2026/01/27

国書刊行会 | 2026/01/27

4.40
本棚登録:5人

みんなの感想

感想

嶽本野ばらの『それいぬ』の愛蔵版を手に取った時、正直なところ戸惑いを感じた。90年代の乙女の聖典と聞かされていたので、時代的な距離感をどう埋めるか懸念していたのだ。だが読み進むうちに、その懸念は見事に払拭された。 本書に満たされているのは、一貫した「優しさの哲学」である。著者の言葉たちは韜晦に満ちながらも、読み手を決して傷つけない。むしろ包むように、支えるように語りかけてくる。教室で生徒たちの揺らぐ心と向き合う自分の職業経験を通じて見ると、ここに記された繊細な心理描写はまさに処方箋に思える。 四半世紀前の作品とは思えない普遍性があり、掲載されたエッセイや短編の数々は今読んでも色褪せていない。むしろ、スマートフォンに疲弊した現代だからこそ、この手紙のような優雅な語りが胸に沁みる。愛蔵版として仕上げられた装丁も秀逸で、書架に置いておきたくなる一冊だ。 大人になった今だからこそ味わえる深さと魅力がある。

感想

20代の頃に読み逃していた伝説のデビュー作、ようやく手に取りました。嶽本野ばらの名前は聞いたことがあるけれど、実際に読むのは初めてです。 正直なところ、最初は戸惑いました。独特の世界観、詩的で時に難解な表現…。でも何度か読み返していると、その言葉たちがじんわり胸に沁み込んでくる感じがして。特に「貴方はずっと貴方が愛した貴方でしかない」という一文は、ぐっときました。 公務員という安定した生活をしている今だからこそ、かもしれません。若い頃のように世界に反発することはなくなったけれど、どこか心の片隅に「本当の自分」への問い直しがある。この本はそういう迷いや悩みに優しく寄り添ってくれるような気がします。 愛蔵版という装いも素敵で、読むたびに手に取りたくなる。気軽に、そして時に深く。何度でも読み返せる一冊として、書棚に迎え入れるのに相応しい本だと感じました。